双眼鏡 防湿庫

〜 カール・ツァイスの趣ある旧式双眼鏡の備忘録 〜

目録 2023/01 

Carl Zeiss Binoculars

-Zeiss-

Dialyt 6x42 Skipper + Mono 3x12B [1]

Dialyt 7x42

Design Selection 8x56 Night Owl [2] 

20x60s Stabilizer [3]

Deltarem 8x40

・Oberkochen 8x30     *[数字]:稼働率順位

 

Dehumidifier

-Swarovski-

EL 10x50SV WB 

-Nikon-

WX 10x50 IF + TCON-17X  2023-01-04 加筆

-------------------------------------------

f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 手記「光学レンズ研究者の足跡」 

f:id:Zeiss:20210402170627p:plain SNAPZOOM Ⅱ メンテナンス道具

f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 小型防湿庫(トーリハン PH-60)1台に整理

-Swarovski-

EL 10x50SV WB

-Nikon-

Nikon WX 10x50 IF + TCON-17X  23-01-04加筆

-------------------------------------------

f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 手記「光学レンズ研究者の足跡」 

f:id:Zeiss:20210402170627p:plain SNAPZOOM Ⅱ メンテナンス道具

f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 小型防湿庫(トーリハン PH-60)1台に整理

Nikon WX 10x50 IF + TCON-17X 

登場から、すでに5年。光学性能評価、最適な三脚の考察、さらには拡張装備(自作ヘッドレスト、フィルターボックス、テレコンバーター)まで語り尽くされた、ニコン100年史の集大成 WX10x50 IF。大型アッベ・ケーニッヒ型プリズムと超広角アイピースの融合という浪漫設計で、性能も重さも価格も重量級である。

個人的にも、Deltarem(デルタレム)のような超広視界に、EL10x50よりも自然な星像が隅々まで広がっているということで、星空観察において重宝している。

今回、水瓶座η(エータ)流星群観測の遠征にて、放射点が東の空に昇ってくるまでの間、ニコンWX(2017年)、ツァイスDeltarem(1937年)、WXと同倍率レンズ寸のスワロEL10x50SV WB(2015年)、オリンパスTCON-17Xを比較する機会に恵まれた。TCON-17Xは、ISHIZAKAさんの記事に感化され、以前から試してみたかったテレコンバージョンレンズだ。

 

<使用機材>
双眼鏡:WX10x50 IF、EL10x50SV WBDeltarem 8x40
テレコンバーター:OLYMPUS TCON-17X
三脚:GITZO GT3542L(3型4段ロング)
雲台:GITZO GH3382QD(ボール型)
双眼鏡アダプタ:TRA-5、Zeiss ユニバーサル型

 

 

【日中の使用感】
やはりWXが結ぶ像のリアリティは特筆に値する。ニコンらしく自然な像でありながら、細部の情報まで解像しており、視野広く鏡筒を覗いている感覚も無く、良い意味で普通(リアル)に見える。現実よりシャープで鮮やかなツァイスやスワロの様な魅せ方ではない、ニコンならではの堅実な像である。最短合焦距離は20mであり、海岸、干潟、湖沼、高台からの遠景等、日中も活躍できる場面は多い。視野一杯までリアルな像が展開するため、風景を覗くというより、拡大された景色の中に放り出された様な感覚になる。特に高所からの鳥瞰は圧巻だ。上空からダイブしながら下界を見渡しているかのような眺望に、平衡感覚が狂い、地に足が着いているか確認してしまう。広視界の酔いを防ぐため、糸巻きの歪曲収差が意図的に残されているので、視界に入った建造物の歪みが気になる人はいるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

WXとEL10x50の遠景比較。iPad miniカメラだと、WXの視野環は通常の接眼目当て位置(6段階の2〜3段目)では写らないため、1枚目の写真では0段目で接写しており、実際の視野より大幅に狭くなっている。5月初旬の朝8時、気温上昇による水蒸気と日照による乱反射、春霞が顕著で8km先の遠景は白けているが、ELがやや青味強く雪は白く、WXの情報量が多い(中間調が豊富な)特徴は何となく伝わるだろうか。allbinos.comのレンズ透過率カーブでも、WXは暖色系(青弱め、黄〜赤〜茶が強め)を描いているが、単独で覗いている分には像内のバランスに違和感はなく、少し着色があると感じる程度。

視野環の違いが判りやすいように、2枚目に冬の朝の写真を追加。WXは、光量の多い時間帯でも像が飽和せず、細部まで階調豊かなので、日中も光学性能の高さに唸らされる場面が多いだろう。

 

安定した三脚と雲台があれば快適だが、20x60SやNikon 18x70IFを常用しているユーザーなら、WXの手持ちも苦ではない。視度調整は、片手の手の平で支えながら、もう片方の手の指で行える。日中の散策に持ち出す場合は、首を傷めないよう、エアーセルストラップやビノハーネスを使いたい。

 

【夜間の使用感】

WX 10x50の重量は2.5kgだが掴みやすく、ローチェアーやコットに寝そべると手ブレ少なく観察できる。首に力を入れることなく仰向けに天頂を望める姿勢だと、意外と手ブレは少ない。さらに滑らない素材の厚手のミトンを使うと、かなり安定する。(マイナス29℃対応のブラックダイヤモンド社製を愛用している)

まずはDeltarem 8x40を覗く。西の空に沈みゆくオリオン座にてWXと比較したところ、概ね kcl31氏によるWX、Deltaremの比較写真通りであった。80年前の双眼鏡のため、コントラストはWXに及ばないが、善戦はしている。1000m視界/199mのため、表示域は広い。ぼやっとした星雲や彗星の尾を見つけやすい。しかし、WXに持ち替えると、視界から薄膜のベールが剥がされ、感嘆する。最新コーティングによる自然なコントラストにより、背景の黒は締まり、1つの固まりに見えていた星々も微細に分離する。80年の光学の進化を感じる。

 

次に、EL 10x50SV WBとの比較。かつて星見用手持ち双眼鏡として評価が高かったEL10x50と、光学設計者の夢と物量をぶち込み絶妙なバランスに仕上げたWX。同じ倍率・口径だが、WXはサイズ1.6倍、重量2.5倍。プリズム、アイピースの大きさが際立っており、双眼鏡と双眼望遠鏡の間に、他社には追随できないWXという新しいジャンルができたと表現することもできる。星見では、どちらも視野の隅々まで像の崩れは少なく綺麗だが、WXの視野の広さは圧倒的で、WX→ELの順に覗くと窮屈に感じてしまう。また、WXが肉眼を増幅した(視力がグンと上がった)ような自然なバランスであるの対し、ELの像はさらにコントラストが強く、微光星も輝星並に目立ってしまう。好みにもよるが、WXのバランスの方が観測時の没入感が高く、空間の奥行きを感じる。逆にELの良いところは、微光星の輪郭までシャープなので、星団を見つけやすい点。そして、1kgと軽く、50mm双眼鏡としてはコンパクトなボディなので、鞄に常備できる。

 

WXで他の双眼鏡よりも格別な見え方をしたのは、さそり座・たて座・いて座周辺。南の空で高度低く、光害の影響で観測が難しいメシエ・NGC天体が集まる一帯だが、視野内とても賑やかで躍然(やくぜん:いきいきと目の前に現れ)たる光景に、流星をカウントする時間を忘れて見入ってしまった。月明かりがなく、(GWで工場の稼働無く、空気は澄み)シーイングが良かったのも重なったのだろう、普段見えない星雲・星団がWXの広視野を埋め尽くした。天頂を見比べる分には気にならなかったが、低空や星雲の密集地帯でELと比較すると、WXは微細な濃淡まで再現できており、天体写真に近い像を結んでくれる。以降の観測でも、空の条件が良いほど、WXとELの地力の違いを感じた。深夜、南東の低空から西へ、長経路の火球がさそり座の尾を撃ち抜いた。その流星痕が霧散し、夜空に溶け込んでいく姿に固唾を呑みつつ、WXの解像力が紡ぎ出す精緻な描写に目を見張るばかりであった。


*ちなみに、スキッパーDSは(輝星と微光星の瞬きや奥行き感、鮮やかな色彩により)現実よりも美しく映えるので、観測用ではなく鑑賞用として優れている。DSで望む未明から薄明にかけての土星、火星、海王星木星、金星のパレードは、惑星の色の違いが明瞭かつ煌(きら)びやかで、WXと違った味わいを愉しめる。

 

テレコンバーター使用感】
さて最後の登場は、テレコンバーターTCON-17X。遠景の対象物をテレコンある・なしで比較したが、像は意外と明るく実用的だった(10倍→17倍に拡大、実視界5.3°で、瞳径3.3mm)。コリメート写真は、水蒸気による春霞で白けているので、倍率の違い(1.7倍)の確認まで。オリオン座の観測でもTCON-17Xを使用したが、kcl31氏の比較写真と変わらぬ良好な星像だった。着脱時に視度調整する手間はあるものの、価格も安く手軽に試せる。 ↓Normalは、WX本体のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレコン使用(17倍)で、20倍の20x60Sは御役御免か…と言うと全くそんなことはなく、三脚に縛られず(過酷な氷点下で、突風が吹き荒れる高地でも)自由に取り回せる機械式防振は快適である。星像も針で突いたようにシャープであり、星雲・星団等、ターゲットが決まっている場合、まだ分がある。ただし、明るい月が対象の場合、20x60Sでは色収差が目立つので、WX+TCON-17Xの方が適している。

 

【冬の八ケ岳高原 Jan 4, 2023

日没後、しぶんぎ座流星群とZTF彗星を待つまでの黄昏時、雪化粧の八ケ岳を望む。

冬は大気中の水蒸気少なく、遠景が霞まないので、WXの光学性能を十分に堪能できる。

 A・E:サンメドウズ清里、B:赤岳頂上山荘(休業中)、C:赤岳展望荘、D:電波塔 *iPhone SE2使用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

積雪は年々減少傾向。最低気温も1月としては暖かく、−13℃弱。夜明けまでは八ケ岳颪も控えめで、月没後から薄明前までの2時間は深い闇が広がり、天体観測日和であった。今冬の一晩の流星カウント数は、ふたご座流星群(一角獣、散在含む)は350個、しぶんぎ座流星群(かみのけ、散在含む)は70個強程度(明け方は25個/時)。今年のしぶんぎ座のピークは昼だったため、突発的に多かった2019年(170個)には及ばなかったが、代わりに獅子座の後方から放たれる流星群(かみのけ座群)が多く、十分見応えがあった。

 

*雪が少ないので、近所のスキー場(シャトレーゼ、サンメドウズ)が、夜通し人工降雪機をフル稼働。眩しい。

*気圧配置によっては、風速20m以上の突風(八ケ岳颪)が観測者を襲う。音速との違いから、先にグゴゴゴゴォォオと地響きが起き、数秒後、雪・砂利混じりの暴風によって、三脚もローチェアーも機材も吹き飛ばされる。

*こじし座群と思われる流星(獅子座頭部やや上の放射点)もあったが、肉眼では散在と見分けが付かなかった。

 

【 総括 -比類なきポテンシャル- 

今まで流星痕の観察には、EL10x50SV WBを愛用していた。ELの像はコントラストが高く、エッジが立つので、微かな流星痕も見分けることができたからだ。瞬時に対象を視野導入できる手持ち双眼鏡の中では、比較的優秀な性能であり、不満は少なかった。

 

その役割をWX10x50に譲ってから、様々な流星群、散在流星を観測してきた。WXの広大な視野、圧倒的な解像力がもたらす超越した映像世界に、あの時の火球や流星痕をこれで観ていたら…と過去に遡りたくなる想い一入(ひとしお)である。永続痕にならない淡い軌跡を覗くと、その残存物質がすぐに大気に消え入ることなく、緑光の短痕が線香花火の様にパチパチ励起(れいき:原子がプラズマ化)する姿を何度か観察できた。肉眼だけでは捉えきれないプラズマガスの微細な濃淡、霧散する動きを五感を交えながら(突入・破裂時の励起で起きる電磁波音と一緒に)判別できるので、高感度カメラを超えた体験がそこにある。流星群は母天体からのチリ(流星物質)を構成する原子、衝突する大気や高度によって、発光の強弱や色に個性が出るが、WXで流星痕を観察することにより、今まで以上にその違いを見極められるかもしれない。

 

近年、ダストトレイル理論に基づく研究により、流星群の発生とピークをより正確に予測することができるようになった。されども、個々の火球や流星痕との遭遇は一期一会であり、それは今後も変わらない。そんな貴重な天体ショーに最高の条件で立ち合うためには、WXは欠かせない相棒となるであろう。
未だ見ぬ世界を体験させてくれる、そんな期待感があるのだ。

 

*皆既月食×天王星食でも、WX10x50+TCON-17Xは、息を呑む映像美を魅せてくれた

 

Nikon WX 10x50 IF *WXは、Wide Extreme/Extra の意

機材: 10x50 Field 9.0°1000m視界/157m

射出瞳径: 5mm

 

【 追記 May 4, 2022 】

オリンパス TCON-17Xを試したいキッカケとなったISHIZAKAさんの記事。今まで双眼鏡ブースターで良い結果を得られたことが少なかったので、夢が広がりました。他にも「RFT (リッチェスト・フィールド望遠鏡) の条件」等、目から鱗の研究多く、勉強になります。


 

 

 

 

 

 

【 追記 May 4, 2022 】

cloudynightsの有名人、kcl31氏の投稿記事。WXのヘッドレストを自作されたことでも有名。ISHIZAKAさんの投稿に呼応し、様々なテレコンバーターを試された。スゴイ人がいるものだ。世界は広い。

光学レンズ研究者の足跡 

f:id:Zeiss:20210907170250j:plain

吉田正太郎先生(1912年9月1日-2015年7月30日)。日本の天文学者、光学設計者。大学、研究機関、メーカー等の団体が抱えていた光学機器(カメラ、望遠鏡、双眼鏡のレンズ・プリズム)の知識・技術を広く一般に広め、後進の育成に励まれた。学舎や同好会で直接師事した生徒よりも、先生の書籍を通し、実体験に根付いたその知識体系に触れ、学んだ人の方が多かったのではないだろうか。

 

先生の書籍に出会ったのは10歳の頃。科学クラブの部長だった私は、月次の実験・観測テーマ作成のため、放課後の理科準備室に入り浸り、警備員の夜間巡回をやり過ごし、校門をよじ登って帰る日々を過ごしていた。準備室には、前担任の趣味で公費購入したと思われる天体写真集や専門書が残されており、その中に吉田先生の書籍も複数存在した。表紙での記憶だと、『天文アマチュアのための望遠鏡光学』から『大望遠鏡の時代・星の話』までの書籍は網羅していたように思う。とはいえ、個人的には光学レンズの解説より、所々挟まれるエピソードの方が脳裏に焼き付いている。

 

ざわ・・・ざわ・・・

 

吉田先生の七回忌を過ぎた2021年8月。光学関係者の胸中を揺るがす事件が起きた。

先生の遺品が複数オークションに出品されたのだ。 戦前のネガフィルムやガラス乾板、中国出張時の写真、そして卒業証書である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、中国出張時の写真にあった「興亜院華中連絡部」の表札に目が留まった。それは、1939年夏に南京紫金山天文台にて、ツァイス製60cm反射望遠鏡**を視察した時の写真と思われる。六櫻社(後のコニカ)が1934年から製造した小型カメラ「ベビー・パール」(3x4cm判)***を、この上海・興亜院委嘱の南京視察に携帯していた逸話が残っている。

*ツァイス双眼鏡だと、1934年はデルトリンテム・リヒターモデル、1939年はデルタレムの頃になる。

**この時、反射望遠鏡の主鏡は(南京陥落の戦火から免れるため)昆明疎開中。1949年に戻される。

***参考資料:三重県総合博物館所蔵のフィルムカメラ「ベビーパール」

 

f:id:Zeiss:20210822194616j:plain

遺品の散逸を悲しむ声がある一方、保護のため、誰かが纏めて落札する動きも見えなかった。
そこで、歴史的学術資料の側面もある写真、ネガフィルム、ガラス乾板は(その用途で欲する方もいるだろうと)敢えて避け、氏の経歴の一行目を飾る「東京帝国大学理学部天文学科 卒業」の証書を入手し、今回の背景を少しでも紐解き、情報共有しようと動いてみた。

 

 

f:id:Zeiss:20210901111152j:plain

出品されていたのは山形県の古物商の方で、「通常の宮城の古物市場で仕入れたが、遺品整理とは思われるものの、市場へ流れた詳しい経緯は判らない」と教えてくださった。丸められた卒業証書は裸のまま、筒にも入っていなかったが、紙焼け少なく、非常に状態が良い。このことから、写真やネガフィルム等の備品と一緒に、大切に保管されていたと想像される。署名がある柴田桂太氏(植物生理学・生化学者、教授:1933~1938年)、小野塚喜平次氏政治学者、東京帝國大學総長:1928〜1934年)も、時代考証と一致する。

 

 

はてさて、証書そのものは一枚の紙なれど、さりとて個人が所有するには手に余る。吉田先生は東京帝國大學卒業後、1934年の厳しい就職難(東大理学部の就職率が23%)の中、4月正式に新設された東北帝國大學の天文学教室に無給副手として職を得た。この時、松隈健彦教授に師事し、(教授も他の助手達も理論家だったおかげで)ツァイス製の長さ1.8mある大型望遠鏡口径13cm、39〜390倍の6種類の接眼鏡が付いた赤道儀。1945年の仙台空襲で焼失)を独占することができ、この望遠鏡を分解清掃、正確に光軸調整し、観測に没頭した。戦前・戦中の体験を経て、レンズを解き明かすことを生涯の目標と定め、理論と実務の双方から光学体系を再構築し、判りやすく人々に広めた功績。この最初の足跡から連なる歴史が無かったら、先生の書籍で光学を学び、知見を得るために役立てた人々は存在せず、昭和〜平成を彩ったカメラ、望遠鏡等の光学機器にも、影響が出ていたかもしれない。

 

寄贈先としては、二度と流出しないよう、ゆかりある学術系施設が望ましい。東北大学理学部天文学教室、東北大学史料館、仙台市天文台といった辺りか。見つからなければ終活時に、光学機器大全の奥付に袋とじを追加して封入し、どこかの図書館に寄贈することになるであろう。

 

SNAPZOOM II 

SNAPZOOM(スナップズーム)スマホアダプターの中では高価だが、軽量(121g)で調整範囲が広く、新旧の双眼鏡を問わず装着できる。鞄に常備するには嵩張るので、よりコンパクトになるとなお良い。

コリメート撮影では、双眼で観た立体感や、ハイエンド機種の解像力まで再現できないとはいえ、個性や雰囲気の違いは伝わるだろうか。

*iPhone SE2使用。アオサギ:<上>25m先からEL10x50SV WB、<下>少し近づいてDesign Selection 8x56

f:id:Zeiss:20210418201732j:plain

f:id:Zeiss:20210615031520j:plain

f:id:Zeiss:20210615031540j:plain

 

【EL10x50SV WB f:id:Zeiss:20210402170627p:plain / DS8x56 f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 】

ツノ見口のDSは(ベストなアイポイントから6mm後方での撮影となり)ピンも合わせづらく、ケラレて像も大幅に崩れた。平型目当てを工作すれば、改善できるかもしれない。

また、複数の双眼鏡を交換していると、振動でカメラレンズの位置がズレることがあるので、付属のクッションテープで、スマホ側は堅めに固定する必要がある。

肉眼で見比べると、ELは細部まで鋭敏(写実的)な描画、DSは濃厚(絵画的)で生気溢れるが、コリメート撮影には、隅まで像の崩れなく平坦なELの方が適している。

*写真は150m先の神社と、50m先のツツジの花

f:id:Zeiss:20210615031448j:plain

f:id:Zeiss:20210615031459j:plain

f:id:Zeiss:20210615031509j:plain

f:id:Zeiss:20210615031607j:plain

 

 

 

【Dialyt 6x42 Skipper f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 】

スキッパーのシズル感も、写真では再現が難しい。肉眼でも、他の双眼鏡より青〜緑成分の透明感が強く、Dialyt特有の濃厚さを保ちながらも、その瞳径(7mm)に輪をかけて明るく感じる。

*眼球の分光透過率の加齢変化:赤の波長(570nm)の透過率が、20歳:85%、45歳:75%、60歳:60%と緩やかに減少する一方、青の波長(445nm)は、20歳:70%、45歳:50%、60歳:30%と半分以下になる(個人差あり)。青の波長まで万遍なくカバーする双眼鏡の像を、透過率以上に明るく感じたり、(若年時に)眩し過ぎると感じる理由は、そんなところにあるのかも

*写真は3m先のツツジの花と、7m先のアオサギカワセミは、アオサギを警戒してか現れず

f:id:Zeiss:20210615031547j:plain

f:id:Zeiss:20210615031529j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【20x60 Stabilizer f:id:Zeiss:20210402170627p:plain 】

20x60Sの防振ボタンを押しながら、iPhoneの撮影ボタンをタップするのは意外と難しい。タップする瞬間、防振ボタンを押している左手で双眼鏡全体を支える必要があるため、ブレやすく、肝心の防振が利きづらくなってしまう。(声シャッターアプリやイヤホンケーブルの音量ボタンで撮影という手もアリ)

2枚目の月面写真は、20x60Sと"Vespera"(倍率は33倍相当)の撮影比較。

*写真は550m先の鉄塔(窓ガラス越し)f:id:Zeiss:20210615031558j:plain

*Vespera:Vaonis社の電子観望カメラ→都心/フィルターなしの例f:id:Zeiss:20210615024855j:plain

 

 

 

 

 

 

月面X(ルナ・エックス)iPhoneかつ三脚無しで像は粗いが、X以外にもL、O、V、Eを確認できた。 
(撮影だけなら、COOLPIX P1000の方が良い

*VとLは時計回り90°、Eは反時計回り90°傾き。Eはうっすら見える程度

f:id:Zeiss:20210728020215j:plain

f:id:Zeiss:20210728020211j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SNAPZOOM II の評価まとめ】

強み

  • 調整範囲が広く、(特殊な型でなければ)新旧の双眼鏡を問わず装着できる。*
  • 軽量(121g)。
  • スマホを横向きにセット可能。機能性重視で、付属品も多い。

弱み

  • 双眼鏡の接眼見口の形状やアイポイントによっては調整しづらい。
  • 常に携行するには、嵩張(かさば)る。
  • 接眼の眼幅が固定。双眼鏡で観て撮ってを繰り返す場合、着脱の度に調整が必要。

 

*特殊な接眼形状の双眼鏡(DeltaremNikon WX)には装着できない。

 

メンテナンス道具 

f:id:Zeiss:20210505185023j:plain

【 双眼鏡のお手入れ 】

一部の双眼鏡では、無水エタノールやクリーナー等で、ボディやタッチアップ補修の塗装を剥がさないよう、また、革部分の変色にも注意が必要。

①大型ブロアー(HAKUBA ハイパワーブロアープロ02)

2020年モデルチェンジ。先端ノズルがプラスチックからシリコン素材に変更され、あの緊張感(噴射時にノズルが吹っ飛び、レンズに当たったら...)から解放された。
ノズルの長さも少し短くなり、扱いやすい。

*シリコンにホコリが付着しやすい点を除けば、お薦め

②携帯ブロアー(HAKUBA ポータブルブロアー)

小さいので、クリーニングペーパー、レンズペンと一緒に、仕事鞄に常備。風量もレンズの埃を飛ばすには十分。

③クリーニングペーパーZEISS Lens Wipes)

速乾性クリーニングペーパーは各社から出ているが、ZEISS好きならこちら。ブロアーで埃を飛ばし、レンズに指紋や結露の痕が残っていた場合のみ使用。クリーニングペーパーで濡らした部分を、マイクロファイバークロスで軽く叩くように拭きとり、レンズペン、ブロアーの順で仕上げる。

f:id:Zeiss:20210508001423j:plain

④ハンドラップ(無水エタノール

一家に一台。ニコンのシルボン紙に付けて使用。仕事ではキムワイプ派だが、シルボン紙の方が柔らかく使い勝手が良い。

メンテナンス通は、無水エタノールと他の洗浄液を混合したりする。クリーニングペーパーで落ちないレンズ汚れにしか使わないので、使用頻度は少ない。

ハンドラップの吸上げ管が瓶底まで届かないため、小さなビー玉を瓶にたくさん入れて嵩上げするのが流行り。
*写真は、8mm玉を80粒入れた場合

 

f:id:Zeiss:20210506000752j:plain

⑤レンズクリーナーZEISS Lens Cleaning Kit)

富士フイルム(販売終了)や堀内カラー製も定番。同梱のZEISSロゴマークマイクロファイバークロスが大量に欲しかったので輸入。噴霧時は独特の香りがあるが、時間が経つと無臭になる。クリーニングペーパーで大半は解決するので、こちらの出番も少なく、もっぱら腕時計やスマホのガラス清掃に活躍。

⑥曇り止めスプレーZEISS AntiFOG Kit)

レンズに一時的なコーティングを追加し、曇り(微細な水滴)の付着を防ぐ。公称では、効果最大72時間と短いが、実際は使用頻度次第のようだ。パッケージイラストには眼鏡とゴーグルのみ描かれているが、裏の説明にはカメラ、双眼鏡にも対応とある。接眼レンズが熱で曇りやすい(アイレリーフが短い)双眼鏡には最適だが、コーティングが脆いレンズや高価な双眼鏡に使うのは避けたほうが良い

ちなみに、Deltaremの接眼レンズで試したら効果抜群。全く曇らなくなった。曇り止めのコーティングは、クリーニングで簡単に落とせる。コンサート用の双眼鏡や、マスクで曇りがちな眼鏡にお薦め。

*眼鏡では(メガネのシャンプーよりも)ZEISSレンズクリーナーで清掃後、AntiFOG Kitを使った方が綺麗に仕上った

f:id:Zeiss:20210506000801j:plain

⑦レンズペン(HAKUBA レンズペン プロキット)

セーム革+カーボン粉末で、指紋やレンズクリーニングの拭きムラを綺麗に落とせる。格納式ブラシも便利。

*レンズペン使用後のブロアーは忘れずに

⑧大型マイクロファイバークロスエレコム KCT-006GY)

双眼鏡ボディの乾拭き専用。

 

他にも、HAKUBAの乾燥剤(キングドライ)と防カビ剤(レンズフレンズ)は欠かせない。