国際宇宙ステーションでも使われている防振双眼鏡20×60S。観測地が冬場マイナス20度のため、電池不要の機械式防振しか選択肢がなく、2017年購入。最終検査日は2017年10月の比較的新しい機体だ。スペック上では1.6kgだが、"がらんどう"のように軽く感じる。観察時の重量バランスもとても良い。
West Germany製の初期機体を借りた時は、視野やや黄色く日中は好んで使わなかった。展示会で最近の機体は改良されているのを実感し、新品購入に至った。初期の個体を含め、複数台触らせてもらったが、中古の機体は長年オーバーホールをしていないのか、どれもピントリング、防振ボタンに違和感があった。新品の接点はスムーズ、像は一層自然で、浮遊感のある防振も快適だ。(→特許資料*)
都市部〜低地で、その光学性能を評価するのは難しい。ツァイスのイメージ(中心シャープで像が濃く、目視より美しい)とは違い、覗いても一見普通の像にしか見えない。展示会の催事場、湖で100m〜1km先を見ても、ギラツキを抑えた像のため、中級双眼鏡と違わないと評価されるかもしれない。
海外だとヘリから動物の群れを探すとか、そういうスケール感で使うようだ。パンフレットのキャッチコピーは「1000m先のコインを確認できる」だった。長野・八ケ岳高原で、8km先の赤岳(写真中央の一番高い山)の尾根を登る人々や頂上の山荘を麓から観察しながら、優れた光学性能だが、自然な像過ぎてその性能に気付き難いのだと改めて感じた。鑑賞ではなく、観察、監視、狩猟のためのプロ向けの道具であり、脚色無く肉眼の延長になるようにチューニングされている。
鳥見では鷹、フクロウ、星見では流星観測の合間に、大きめのメシエ天体を覗く。M45(プレアデス)やM42(オリオン)、M36〜38(ぎょしゃ座)が視野一杯に広がり、賑やかである。
天体観測では防振安定化のため、キャンプ用ローチェアー(ALITE MAYFLY CHAIR)を併用している。20x60Sを顔と垂直に構えたまま、腕を胴体やローチェアーに固定し、ローチェアーの後ろ足を回転軸にして、天体観測ドームのように体をブリッジさせることで天中を望む。氷点下での観測が多く、シバリングによる振動や雪山からの颪風(舞上った積雪が吹雪く)との闘いとなるが、ミトン越しでも、防振、フォーカシングは問題なく行える。レンズの曇り・結露防止のため、レンズヒーターは欠かせない(耐久性に優れたUSBレンズヒーター事務局の物がお薦め)。
外部衝撃に不安が残るため、専用ソフトケースではなく、重いハードケースで運搬している。スタビライザーの修理代は20万円。使用頻度によるが5〜10年で要調整なので、中古はお薦めできない。ひとみ径3mmの割には夜も十分明るいとはいえ、レンズのコーティングを最新にして欲しいと願うオーナーは多いはず。Dialyt Tをプリズム交換すると、Pコーティングのそれに交換されるのは有名な話だが、初期の20x60Sをレンズ交換をすると、現行品になるのか、当時在庫になるのか、今後さらに新しいコーティングに変わることがあるのか、興味が尽きない。
ストラップは、エアーセルストラップに替えている。
*カルダン式防振双眼鏡の発明者Adolf Weyrauch氏は、ダハプリズムに施される位相差補正コーティング「Pコーティング」の発明者としても有名だ。
20x60S
機材: 20x60 Field 3°(1000m視界/52m)
射出瞳径: 3mm
【 追記 Dec 30, 2022 】
望遠鏡や双眼鏡のレビュアーとして有名なScope ViewsのRoger Vineさんが、ツァイスから20x60Sを再びレンタルして、天体観測でのレビューを加筆されていました。前回のレビュー掲載時から、評価を上方修正されているようです。
【 追記 Apr 20, 2021 】
SNAPZOOM II でのコリメート撮影を以下に追加。