双眼鏡 防湿庫

〜 カール・ツァイスの趣ある旧式双眼鏡の備忘録 〜

Dialyt 7x42 

抜けの良さは6x42スキッパー、画質も8x56DSの分解能に敵わず、いまいち使い処がない。

このラインナップだと目立たなくなってしまうが、現代の双眼鏡(エッジが強く、コントラスト重視)と比較すると、独特な像の濃厚さ、被写界深度の深さ、日光や場が醸し出す温度感などから、鉛レンズの良さを感じさせる趣ある双眼鏡と言える。決して万能ではないが、惚れ込んでいる玄人も多いようだ。

Zeiss Dialyt 7x42

元々、Dialyt兄弟のスキッパーや8x56(通称ラッパ)で見る世界の方が美しく感じ、7x42に手が伸びることは少なかった。そこで、最高の7x42を覗きたいとの想いが募り、英国のリペアショップ East Coast Binocular RepairsでAwesome評価を受けた個体(T*やT*P*より像が濃いと謂われるT*P)を入手し、さらにツァイス・ジャパンで光軸を追い込み調整したが、その評価は変わらなかった。

標準の紐ストラップが頼りないので、デッドストックのCarl Zeiss West Germany印のストラップに替え、そうすると標準の革ケースに入りづらいので、DS 7x45の革ケースを用意し、ボディもラナパーで綺麗に磨いたり、至れり尽くせりの王様待遇なのだが、上記の理由で活躍の機会もなく、防湿庫の肥やしとなっている。

 

Zeiss Dialyt 7x42

白尾先生が「バードウォッチャーのあこがれの双眼鏡です」と書籍に書かれていたが、当時の鳥見・星見ではライカのTrinovidの方が使われていたような。その後、Rohs指令によるエコガラス移行後の機種(Victory無印〜FL)で、見え味の方向性が迷走し、相対的にDialyt 7x42の評価や相場が上がった記憶がある。

Zeiss Dialyt 7x42

入手難易度は低いが、何かしらのメンテナンスは必須であり、光学系パーツの交換が必要になると割高になる。その予算で、現行機種を購入した方がコスパは良いはずだが、沼にハマる人が後を絶たない。パーツ交換を伴わないメンテナンスであれば、ツァイス・ジャパンが無償対応*してくれていたが、2021年4月から、日本国内の双眼鏡の販売・修理サービスはケンコートキナーに移管されてしまった。今まで通りにとはいかないかもしれない。**

Zeiss Dialyt 7x42

世間一般の評価は大きく分かれる。自分の求める像がハッキリしていて、これこそが生涯無二の双眼鏡とする方々もいる一方、メーカーの拘りなく様々な双眼鏡を比較され、常により良い物を求めている方々の評価は、そこまで高くない。7倍という倍率も鳥見にはやや力不足だし、星見にも周辺像の歪み・収差が気になる。ただし、観察対象を限定せず、軽い気持ちでフィールドに持ち出し、景色を眺めるには適している。光学性能の追求ではなく、特有の像を愉しむというオールドレンズに向き合うような姿勢ならば、まだまだ活躍の場面は多いだろう。***

 

*窒素封入のない機種のメンテや交換パーツの国内在庫管理は、日研テクノが担当することが多かった。

**国内在庫が無くなっていたDialyt 6x42 Skipperの対物レンズキャップの予備を、ケンコートキナーさんにドイツ本国から取り寄せて貰った。印象としては、メールの回答が早くて良い感じ。ツァイス・ジャパンの時は、担当者が他の業務と兼務だったので、後手なところがあったが、そこは改善された。(ドイツ本国の対応に時間がかかるのは変わらない)

***近い見え味で、色彩表現や解像度がより尖った機種(Dialyt 8x56/6x42 Skipper、DS Night Owl)を愛用している場合、7x42の像は余り印象に残らない。全く違う見え味の双眼鏡(例えばスワロNL/EL)を常用している人の方が、7x42の個性に惹かれるかもしれない。

 

7x42 dialyt

機材: 7x42 Field 8.5°1000m視界/150m

射出瞳径: 6mm