双眼鏡 防湿庫

〜 カール・ツァイスの趣ある旧式双眼鏡の備忘録 〜

Design Selection 8x56 

Night Owl(ふくろうの目)シリーズでは、一番バランスの良い機種だと思われる。

曰く「光学性能は素晴らしいが重い」「採算度外視で作った」「鉛レンズの最終形」として有名。56mmレンズの分解能によるシャープさと多彩な物質の質感表現に優れるが、それを堪能するには、1)重さ(1.45kg)、2)逆光に弱い(接眼の迷光に難)、3)色収差という三重苦を上手く制御する必要がある。

Design Selection 8x56

当初は、逆光に弱く色収差が消し込めず、ふくろうの目と銘打って、薄暮〜夜に使ってね、と逃げたのではないかと邪推したが、使い込むと良い面も見え、気が付くと手を伸ばしてしまう。

FL以降のフラッグシップ機と比べると、逆光に弱い。眩い朝日の逆光下では、コントラスト不足となる。そのような場面は、日陰に移動するか、逆光に強い双眼鏡(スキッパー、EL等)に任せた方が良い。逆光でなければ、日中〜薄暮は程よいシャープさと像質、42mm機とは段違いの分解能を体験できる。42mm機では、葦に覆われた沼地の湖面を見ることができなかったが、DS 8x56では葦の僅かな隙間と隙間まで解像され、湖面の姿が浮かび上がる。

では、夜はどうか?手持ち双眼鏡として、星空に定評のあるスワロフスキーEL10x50SV WBで見る夜空は、星々のエッジが立ち過ぎて、まるでプラネタリウムを見ているかのような人工感があるが、DS 8x56の星空はよりリアルで、覗いていると、すぅと吸い込まれるような感覚になる。スキッパーのように星の煌めき、瞬きは美しく、ELよりも多くの微光星雄大な奥行きを演出する。星空指数の高い日は、鞄のスキッパーはDSと入替えになる。

Design Selection 8x56Design Selection 8x56

見た目は横に広めだが、眼幅を合わせるといくらかスマート。

実物は造りも良く、写真よりも高級感がある。

重さは、シリーズ(7x45、8x56、10x56)で、一番8x56が重い(1,459g)。20x60Sの"がらんどう"な重量感とは対象的に、ぎっしり詰った感じの鏡筒だ。長さも、10x56より3mm長い。

視度調整範囲も他2つは+/-4.5Dなのに、8x56だけ+/-3.0Dで、裸眼で視力0.1を切っていると、眼鏡かコンタクトレンズで矯正しないとピントが合わない。

それでも何故8x56を選ぶのかと言うと、 3機種の中で一番色収差が少ないから。直射日光の当たった屋根、電線、逆光の当たったブラインドを通る光、月などの色収差を無くすことは難しいが、眼幅、アイポイント、視度調整を細かく追い込むことで、かなり改善することができる。

Design Selection 8x56

重量バランスが良いため、覗いている間は重いと感じないが、移動時には首にずしっとくるので、肩にかけるか、エアーセルストラップやビノハーネスに替えるのも良いかもしれない。

接眼アイカップ(ゴム見口)は経年で、カチンカチンに硬化したり、ヨレヨレになったりする。交換品の在庫を取り寄せたが、どれも少し縮んでいた。

専用の対物レンズキャップ(Black)を探しているが、B&Hの在庫も無いようだ。   

 

 

       

8x56 Design Selection ( 8×56B T*P*)

機材: 8x56 Field 7.5°1000m視界/132m

射出瞳径: 7mm

 

【 追記 Apr 19, 2021 】

SNAPZOOM II でのコリメート撮影を以下に追加。

 

 

 

 

 

 

 

 

【 追記 May 24, 2021 】

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Design Selection(Night Owl)シリーズの良像範囲について。

10x56は15%、7x45は35%、8x56が50%±5といったところ。設計に余裕のある8x56以外は正直使いづらく、10xを処分して、8xを手元に残したオーナーは多かった。7xはDialytに像質・バランスで敵わず。視野角60°と透過率向上のため、より大きなプリズムを採用したが、全長を縮めてレンズを増やし、色収差に無理が出たり、その光学系や防水用のゴムで重くなった。銘機Dialytの系譜と、ライバル機種であったライカTrinovid(防水・コンパクトで秀逸なデザイン)を意識して、非常に苦慮したのが垣間見える。エコガラスの無印Victoryを経て、蛍石対物レンズを採用したVictory 8x56FLの良像範囲も、25〜30%位。その改善はSFシリーズを待つことになる。
*光軸経路は、ZeissのWalter Besenmatter氏の資料から抜粋