双眼鏡 防湿庫

〜 カール・ツァイスの趣ある旧式双眼鏡の備忘録 〜

EL 10x50SV WB 

2015年秋のSV WBから5年、そろそろ新型出ますよね?と某有名ショップで相談したところ、最近モデルチェンジしたばかり(そうだっけ?)だから、まだ出ないでしょうとの回答で購入。予想通り、3ヶ月後にNL Pure発表となったが、確かに50mm機としてはまだフラッグシップか。

Swarovski EL 10x50SV WB

光学性能と造りは素晴らしい。色収差もオールドツァイス勢と比較すれば、ほぼ抑えられている。像のエッジが立っており、星雲、彗星を見つけやすい。急にパンしなければ、回転球現象酔いも少ない。

あえて重箱の隅をつつくと、少し木々の立体感に違和感(飛び出す絵本のよう)、夕方のコントラスト低下、星の瞬きが安定しており、プラネタリウムのように人工的。後は、接眼アイカップとレインガードが擦れて、少し白く粉っぽくなる(拭けば綺麗になる)。

Swarovski EL 10x50SV WB

Swarovski EL 10x50SV WB

Swarovski EL 10x50SV WB

Swarovski EL 10x50SV WB

果たしてNL50mmが出るのかどうか、旗艦モデル主戦場の42mmで、12倍まで出してしまったし。

 

      

 

       

       

       

       

 

 

 

EL 10x50SV WBは、バランス良く万能で、観察対象の輪郭と魅力を写実的に惹き出してくれる。個人的には、旧世代を測る物差し(リファレンス)としても重用している。古強者(ふるつわもの)ばかり扱っていると、ややもすれば郷愁ノスタルジアな視点にぶれがちになるが、そんな状況を心地よくリセットしてくれる。

 

EL 10x50SV WB

機材: 10x50 Field 6.6°1000m視界/115m

射出瞳径: 5mm

 

【 追記 May 4, 2022 】

EL 10x50SV WBと同じ10倍50mmレンズ寸の双眼鏡「WX 10x50」との比較を以下に追加。

 

 

 

 

 

 

 

 

【 追記 Apr 7, 2021 】

バーントオレンジ(焦げたオレンジ色)が美しいNL Pure 32mmモデル。EL O-Range(狩猟用レンジファインダー)の鮮やかな色より落ち着いた印象(照明の加減?)。汚れが目立たない色なのは、バスケットボールでもお馴染。猪や鹿の色覚では、オレンジはくすんだ色となる一方、鳥類はオレンジを認識するので、少し悩ましい。性能は、SF32と良い勝負になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

【 追記 Apr 19, 2021 】

SNAPZOOM II でのコリメート撮影を以下に追加。

 

 

 

 

 

 

 

 

【 追記 May 14, 2021 】

ジャングルさんによる鳥見双眼鏡頂上決戦・最速レビュー。著名バーダーでもある「T店長」との掛け合いが面白い。

 

 

 

 

 

 

 

NL32mmは本体35万円台。このクラスの双眼鏡購入において、究極を手にできるなら数万円は誤差とはいえ、日本のみスタグフだから一層高く感じる。10年前にフラッグシップ機、ツァイスFL56mm、スワロEL42mmは28万円だった。海外はインフレ傾向だが、大半の日本人のお財布事情は、2〜30年前(Dialyt 7x42が19万円、8x56が23万円)と大差ないままではないだろうか。

20x60s Stabilizer 

国際宇宙ステーションでも使われている防振双眼鏡20×60S。観測地が冬場マイナス20度のため、電池不要の機械式防振しか選択肢がなく、2017年購入。最終検査日は2017年10月の比較的新しい機体だ。スペック上では1.6kgだが、"がらんどう"のように軽く感じる。観察時の重量バランスもとても良い。

Zeiss 20x60 Stabilizer

West Germany製の初期機体を借りた時は、視野やや黄色く日中は好んで使わなかった。展示会で最近の機体は改良されているのを実感し、新品購入に至った。初期の個体を含め、複数台触らせてもらったが、中古の機体は長年オーバーホールをしていないのか、どれもピントリング、防振ボタンに違和感があった。新品の接点はスムーズ、像は一層自然で、浮遊感のある防振も快適だ。(→特許資料*)  

 

Zeiss 20x60 StabilizerZeiss 20x60 StabilizerZeiss 20x60 StabilizerZeiss 20x60 Stabilizer   

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都市部〜低地で、その光学性能を評価するのは難しい。ツァイスのイメージ(中心シャープで像が濃く、目視より美しい)とは違い、覗いても一見普通の像にしか見えない。展示会の催事場、湖で100m〜1km先を見ても、ギラツキを抑えた像のため、中級双眼鏡と違わないと評価されるかもしれない。

野辺山 八ケ岳

海外だとヘリから動物の群れを探すとか、そういうスケール感で使うようだ。パンフレットのキャッチコピーは「1000m先のコインを確認できる」だった。長野・八ケ岳高原で、8km先の赤岳(写真中央の一番高い山)の尾根を登る人々や頂上の山荘を麓から観察しながら、優れた光学性能だが、自然な像過ぎてその性能に気付き難いのだと改めて感じた。鑑賞ではなく、観察、監視、狩猟のためのプロ向けの道具であり、脚色無く肉眼の延長になるようにチューニングされている。

鳥見では鷹、フクロウ、星見では流星観測の合間に、大きめのメシエ天体を覗く。M45(プレアデス)M42(オリオン)、M36〜38ぎょしゃ座が視野一杯に広がり、賑やかである。

 

天体観測では防振安定化のため、キャンプ用ローチェアー(ALITE MAYFLY CHAIR)を併用している。20x60Sを顔と垂直に構えたまま、腕を胴体やローチェアーに固定し、ローチェアーの後ろ足を回転軸にして、天体観測ドームのように体をブリッジさせることで天中を望む。氷点下での観測が多く、シバリングによる振動や雪山からの颪風(舞上った積雪が吹雪く)との闘いとなるが、ミトン越しでも、防振、フォーカシングは問題なく行える。レンズの曇り・結露防止のため、レンズヒーターは欠かせない(耐久性に優れたUSBレンズヒーター事務局の物がお薦め)。

Zeiss 20x60 StabilizerZeiss 20x60 Stabilizer

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外部衝撃に不安が残るため、専用ソフトケースではなく、重いハードケースで運搬している。スタビライザーの修理代は20万円。使用頻度によるが5〜10年で要調整なので、中古はお薦めできない。ひとみ径3mmの割には夜も十分明るいとはいえ、レンズのコーティングを最新にして欲しいと願うオーナーは多いはず。Dialyt Tをプリズム交換すると、Pコーティングのそれに交換されるのは有名な話だが、初期の20x60Sをレンズ交換をすると、現行品になるのか、当時在庫になるのか、今後さらに新しいコーティングに変わることがあるのか、興味が尽きない。

ストラップは、エアーセルストラップに替えている。

 

*カルダン式防振双眼鏡の発明者Adolf Weyrauch氏は、ダハプリズムに施される位相差補正コーティング「Pコーティング」の発明者としても有名だ。

 

20x60S

機材: 20x60 Field 3°1000m視界/52m

射出瞳径: 3mm

 

 

【 追記 Dec 30, 2022 】

望遠鏡や双眼鏡のレビュアーとして有名なScope ViewsのRoger Vineさんが、ツァイスから20x60Sを再びレンタルして、天体観測でのレビューを加筆されていました。前回のレビュー掲載時から、評価を上方修正されているようです。

 

 

 

 

 

 

 

【 追記 Apr 20, 2021 】

SNAPZOOM II でのコリメート撮影を以下に追加。


Deltarem 8x40 

80年前の超広視界双眼鏡「Deltarem(デルタレム)」(実視界11.2度:旧JIS・見掛視界90度)。

第2次世界大戦時、ドイツ空軍が飛行機からの偵察で使っていたIF式Deltarのセンターフォーカス版。

Zeiss Deltarem 8x40

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Deltrintem(デルトリンテム。ポロ型双眼鏡の歴史的原器)の2倍の価格であった(1935〜1943年)。日本天文研究会・中島先生の寄稿月刊天文2004年3月号)によると、当時の日本では500円(大卒初任給半年分以上)だったそうだ。発売直後の貴重なレビューとして、1938年にカナダ王立天文学会の科学雑誌へ掲載されたPeter Millman氏による記事「Binoculars Suitable for Telescopic Meteor Observation(流星観測に適した双眼鏡)」が残っている。直訳すると、「デルタレムは特に注目すべきツァイス製品で、最近発売されたばかりの双眼鏡です。筆者はトロントのツァイス代理店の厚意により、この双眼鏡をテストすることができました。この双眼鏡は90度以上という驚くほど広い見かけ視界を持ち、流星観測に非常に有効です。大きな視野の端では多少の歪みが検出されますが、視線を端に向けると、かなり解消されます」と、他の双眼鏡よりも傑出したスペックだったことが記されている。

しかし、現在では良品の残存数は少なく、極上品はebayで36万円近い値がついたこともあった。Nikon WXが販売されてからは、骨董品としての価値しか無くなったか。最近は比較的安く入手できるようになったが、メンテナンスしても、実用に耐え得る個体は少なそうである。

 

Zeiss Deltarem 8x40

本機は、英国の古物商から譲り受けた物で、元はコレクターの所有品(遺品)だった。そして、単層コートが施されたレア物。終戦直後の1945年頃、当時生産中止となっていたデルトリンテム・リヒター等の戦前〜戦中の旧製品の在庫パーツを活用し、コーティングした再生産品があったことは以前からマニアにも知られており、その中に少数ながらデルタレムもあったのではないか、と推測する。もしくは、余程の双眼鏡マニアが、コーティングの後加工をイエナ工場か他の光学会社に頼んだか。尊敬するハンス・シーガー博士の回答では、それは「a complicated and expensive procedure(困難で高価な手段)」だったとのことで、個人的には前者かと思う。しかし、光学性能を追及したギークが(金に糸目を付けず)、10〜20%の透過率向上のため、真空蒸着機とノウハウのある会社にコーティング処理を依頼した、というストーリーも中々面白いのではないだろうか。もしも、Nikon WXが登場していなければ、私も同様のことを画策していただろう。

デルトリンテム・リヒター(ノンコート)との比較

主に星見に使用。彗星の尾、微光星が良く見える。重量は1kgあるが、両手の手のひらに収まるので、観測時は余り重さを感じない。

アイレリーフが短く、眼球を接眼の目当てに押し込むため、熱でレンズが曇りやすい。星見には極端な近視だと視度調節が足りず、コンタクトレンズが必要となる。

視野中心はシャープ。良像範囲40%以内で、周辺は60〜70%辺りから崩れていくが、眼球をぐるっと回さないと周辺は見えないので、余り気にならないかもしれない。使える骨董品(ビンテージ)を愉しめる酔狂な御仁にしか、お薦めはできない。

 

*接眼目当て(アイカップ)について。本機は、オーバーコッヘン光学博物館所蔵のデルタレム同様、やや長い仕様。実測で2mm程伸び、天空を見上げる姿勢でも、アイポイントを定めやすい。内側の溝数も増え、見口の美しさが際立つ意匠だ。

 

Deltarem 8x40

機材: 8x40 Field 11.2°1000m視界/199m

射出瞳径: 5mm

 

【 追記 May 4, 2022 】

Deltarem登場から80年となる2017年に発売された、現代の超広視界双眼鏡「ニコンWX」。
それは、造り手の熱い想いと最高水準の技術をコスト度外視で投入した、比類なき双眼鏡。

 

 

 

 

 

 

 

 

【 追記 Apr 4, 2021 】

cloudynightsフォーラムの、WX、NL、Dialyt 7x42、Deltaremの比較記事。Deltaremのアイレリーフが短いので、撮影に苦労したようだ。外縁に近づくにつれ、かなり圧縮されている。肉眼で覗いた感じでは、もう少し崩れ方は穏やか。

 

Dialyt 7x42 

抜けの良さは6x42スキッパー、画質も8x56DSの分解能に敵わず、いまいち使い処がない。

このラインナップだと目立たなくなってしまうが、現代の双眼鏡(エッジが強く、コントラスト重視)と比較すると、独特な像の濃厚さ、被写界深度の深さ、日光や場が醸し出す温度感などから、鉛レンズの良さを感じさせる趣ある双眼鏡と言える。決して万能ではないが、惚れ込んでいる玄人も多いようだ。

Zeiss Dialyt 7x42

元々、Dialyt兄弟のスキッパーや8x56(通称ラッパ)で見る世界の方が美しく感じ、7x42に手が伸びることは少なかった。そこで、最高の7x42を覗きたいとの想いが募り、英国のリペアショップ East Coast Binocular RepairsでAwesome評価を受けた個体(T*やT*P*より像が濃いと謂われるT*P)を入手し、さらにツァイス・ジャパンで光軸を追い込み調整したが、その評価は変わらなかった。

標準の紐ストラップが頼りないので、デッドストックのCarl Zeiss West Germany印のストラップに替え、そうすると標準の革ケースに入りづらいので、DS 7x45の革ケースを用意し、ボディもラナパーで綺麗に磨いたり、至れり尽くせりの王様待遇なのだが、上記の理由で活躍の機会もなく、防湿庫の肥やしとなっている。

 

Zeiss Dialyt 7x42

白尾先生が「バードウォッチャーのあこがれの双眼鏡です」と書籍に書かれていたが、当時の鳥見・星見ではライカのTrinovidの方が使われていたような。その後、Rohs指令によるエコガラス移行後の機種(Victory無印〜FL)で、見え味の方向性が迷走し、相対的にDialyt 7x42の評価や相場が上がった記憶がある。

Zeiss Dialyt 7x42

入手難易度は低いが、何かしらのメンテナンスは必須であり、光学系パーツの交換が必要になると割高になる。その予算で、現行機種を購入した方がコスパは良いはずだが、沼にハマる人が後を絶たない。パーツ交換を伴わないメンテナンスであれば、ツァイス・ジャパンが無償対応*してくれていたが、2021年4月から、日本国内の双眼鏡の販売・修理サービスはケンコートキナーに移管されてしまった。今まで通りにとはいかないかもしれない。**

Zeiss Dialyt 7x42

世間一般の評価は大きく分かれる。自分の求める像がハッキリしていて、これこそが生涯無二の双眼鏡とする方々もいる一方、メーカーの拘りなく様々な双眼鏡を比較され、常により良い物を求めている方々の評価は、そこまで高くない。7倍という倍率も鳥見にはやや力不足だし、星見にも周辺像の歪み・収差が気になる。ただし、観察対象を限定せず、軽い気持ちでフィールドに持ち出し、景色を眺めるには適している。光学性能の追求ではなく、特有の像を愉しむというオールドレンズに向き合うような姿勢ならば、まだまだ活躍の場面は多いだろう。***

 

*窒素封入のない機種のメンテや交換パーツの国内在庫管理は、日研テクノが担当することが多かった。

**国内在庫が無くなっていたDialyt 6x42 Skipperの対物レンズキャップの予備を、ケンコートキナーさんにドイツ本国から取り寄せて貰った。印象としては、メールの回答が早くて良い感じ。ツァイス・ジャパンの時は、担当者が他の業務と兼務だったので、後手なところがあったが、そこは改善された。(ドイツ本国の対応に時間がかかるのは変わらない)

***近い見え味で、色彩表現や解像度がより尖った機種(Dialyt 8x56/6x42 Skipper、DS Night Owl)を愛用している場合、7x42の像は余り印象に残らない。全く違う見え味の双眼鏡(例えばスワロNL/EL)を常用している人の方が、7x42の個性に惹かれるかもしれない。

 

7x42 dialyt

機材: 7x42 Field 8.5°1000m視界/150m

射出瞳径: 6mm